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高知家庭裁判所 昭和40年(少ハ)8号 決定 1965年11月02日

本人 M・Y(昭一九・九・二二生)

主文

被申請人を本決定の日から一年間医療少年院に継続して収容することができる。

理由

被申請人は、昭和三八年七月四日窃盗保護事件により当裁判所において医療少年院送致の決定を受け、京都医療少年院に収容された。そして、同三九年九月二一日をもつて満二〇歳に達したのであるが、同年九月一七日前記少年院長から、同人は痴愚級、精神薄弱者(知能指数五〇)であつて吃音及び夜尿症を伴い、一応集団生活を営んでいるものの独立の社会生活を営むことは困難であり、しかも、保護者に保護能力もなく適当な福祉施設も存在しないことを理由として成人後も引続き収容を継続する旨の申請がなされた。よつて、当裁判所は同年一〇月三〇日付で同四〇年一〇月二九日まで継続して収容する旨の決定をなし、引き続き収容中のものである。しかして、本年一〇月二九日をもつて収容継続期間が満了するに当り、本年一〇月六日前記少年院長から、前回収容継続申請と同様の理由をもつて、同人につき再度の収容を継続する旨の申請がなされたものである。

申請書添付の京都医療少年院精神科医師稲本確二郎作成の被申請人に対する診断書、当家庭裁判所調査官補内田睦子作成の昭和四〇年一〇月二五日付調査報告書及び本件審判における被申請人及び法務教官の供述を総合すると、被申請人の精神障害の程度については京都医療少年院長の申請のとおりである。しかし、被申請人は収容継続以後は行動面に格別の事故もなく、単純作業もまずまず可能であり、現在、処遇は最高段階に達していること、なお、夜尿症も投薬により快方に向つていること等から考えると、前回の収容継続決定の前後と比較した場合、漸次社会的適応性を得つつあることが認められる。

しかるに、被申請人家庭の現況をみるに、母は欠損、父は精神薄弱で経済的、職業的その他でも他から援助を受けており、社会適応能力なく、また貧困、病身で保護能力は全くない。かつ、被申請人の引取を拒絶し、また事実上も不可能な状態にある。さらに、帰住先たる高知県唯一の社会施設であるかがみの育成園においても定員上収容の余裕がなく、他にも被申請人の保護を委ねるべき社会資源がないため、受入態勢は著しく悪い状況にある。

以上の事実を総合すると、被申請人の院内における収容経過は比較的良好であると認められるけれども、同人の低知能、前歴、社会的適応能力等を考慮すれば、上記受入態勢のもとで今直ちに社会に復帰せしめるとすれば、積極的、計画的な非行に走るおそれは認め難いとしても、衝動的、短絡的に窃盗その他の非行に陥ることは明白である。そうだとすると、受入態勢の不満と相俟つて被申請人の犯罪的傾向は治癒されるに至つていないと言わなければならないから、更に被申請人を引続き医療少年院に収容することは、その保護の目的を全うする所以でもある。そして、その収容継続期間は被申請人の在院成績が漸次向上していることは前記のとおりであるので、今後は退院後の社会資源を確保するとともに、それに適応した矯正教育を加えるために、本決定の日から一年間と定めるのを相当と思料する。

よつて、少年院法第一一条第四項、少年審判規則第五五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 白石晴祺)

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